手段としてのソフトウェア

作りたいものが見つからず不安なので,せめて何か蓄積したいと思いました。

数学ガールの秘密ノート/数列の広場 を読んだ

社会復帰に向けたリハビリ活動,今日も今日とて読書感想文です。いつになったらソフトウェアの記事を書くのか?結局書かないのか?はたして・・・

 

ともあれ,数学ガールの秘密ノートシリーズから,「数列の広場」です。

最初に結論を述べますが、登場人物たちと一緒に遊ぶとすごくたのしいので、おすすめです!

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今回も相変わらず楽しいです。式変形なんかも,少しずつ自力でできるようになってきているのがうれしい。レベルが低いと言われてもいいのです。これからの男ですよ,僕は!

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数列,楽しいネ

前回はとにかく「楽しかった!」という気持ちのままに書きなぐってしまいましたが,考えてみたら,それでは訓練になっていません。

従って今回は,本書の章立てにそって,内容の簡単な紹介も合わせて,ていねいに書いていきたいと思います。数列の広場は本当に広大でしたが,考えて書く訓練!です。

そのため少々長くなっています。もし,ありがたくも拙文を読んでくださっている方がいらしたら,言うまでもないと思いますが,途中で切り上げてくださいね!

 

第1章 並ぶ数,広がる数

 本章は,オセロ盤という具体的な世界から始まります。「僕」がユーリさんにオセロで惨敗続きという,そんな男子高校生の部屋があってたまるか,という妬みの気持ちからスタートです。いえ,冗談です。本当です。

 まずはオセロ盤の上,具体的に把握できるサイズの問題から始まり,徐々に盤をはみ出して,より広い世界へと考えを広げていきます。平方数,数列という概念,定数列,等差数列,階差数列と,「わかった (思い出せた) 範囲」を一歩ずつ広げていく感覚がとても心地よいです。オセロ盤と石,という具体的なイメージがあるおかげもあってか,手を動かしながらていねいに読みさえすれば,ここでは生徒役のユーリさんの思考を追体験できます。

さあ,はじまりました,というワクワク感のある章です。

 

第2章 驚異のシグマ

 舞台は高校の図書室へ移ります。こんどはテトラさんとのイチャイチャタイムです。おのれ。いえ,読んでいくうちに自然とテトラさんに感情移入し,「僕」先輩ステキ!となります。

ここでは指数や添字,Σ (和の記号) についてなど,これからお付き合いを深めていく相手との自己紹介タイムのような会話からはじまります。

この章から伝わってくるメッセージは,「恐れることはない,知ろうとすればいい」です。Σ について,「どう便利なのか」「何がうれしいのか」をていねいに示してくれます。また,生徒役のテトラさんがいるおかげで,ちょっとわからないところがあっても落ち着いて進んでいけます。「わからない」というのは「慣れていない」「ちゃんと興味を持てていない」というだけかもしれないよ,と優しく導いてもらえます。

自分がそうだからかもしれませんが,ソフトウェアに関わる方なら,本章の内容は共感できるものが多いのではないかと思います。少し本文から,登場人物たちのセリフを引用します。

 

  • 「数式も楽譜も,<世界共通の言葉> だしね」 (P.39)
  • 「英語の構文解釈。あれと似てる」 (P.40)
  • 「数式は言葉。言葉は思考の道具。道具を磨き,思考を磨き,表現を磨く」 (P.55)
  • 「私たちは『大局的な姿』と『局所的な姿』の関係をとらえようとしている」 (P.70)

 

プログラミングを学ぶ時と似ていると思いませんか。

そして何よりも,突然音楽の話を始めたりと,たとえ突拍子もないと思われようとも「なんとかわかりたい」と振る舞うテトラさんの姿に胸をうたれます。私もこうありたいものです。

第3章 いとしのフィボナッチ

 正直,フィボナッチをいとしいと思ったことはない。いや,そんなことはいいのです。

舞台は自宅へと移り,ユーリさんとの時間を過ごす (ちくしょう!) この章は,ゲーム等のスペックの数字 (「1024通り」とか「64ビット」とか,ソフトウェア関係者ならお馴染みのあれです) から冪乗の話題,フィボナッチ数列等比数列の話,果ては鳩の巣原理へと進みます。

それと並行して,話は「予想と検証」「具体例と一般化」といった考えるための道具についても広がっていきます。

この章は,いわば「抽象と具体」を行き来したり,数式という表現になじんでいくためのトレーニングのような内容です。考える筋肉が喜んでいるよ!

 知っていると思っていることでも,改めて手を動かして考えてみたり,数式をじっくりと眺めて,そこで表現されているものについて思いをめぐらせてみたりすることで,新鮮な気持ちを味わうことができます。

 

第4章 シグマったり,ルートったり

舞台はまた,図書室へ。この章では,「村木先生」(まるで,ヨーダ師のようだ) からのお題を楽しみます。

「僕」とテトラさんとで,これまでにも触れられてきたような各種の手法,具体的な数字を当てはめて考えたり,並べて書いて眺めたり,さらには数値をプロットしてグラフ化してみたりと,いろいろな手法で問題に向き合っていきます。

そして,おぼろげながら目標の姿が見えてきたところで,いよいよ数式の登場です!掛けたり,割ったり,足したり,引いたり,一見複雑ですが,確かな道のりを歩いていきます。ああ,式変形って気持ちいいものなんだな,と改めて思います。

 

私も普段,なにかのデータを解釈したいと思うときにはグラフ化してみたりソートしたり,平均をとったりいろいろと手を尽くします。それに,データに限らず,ほんとうにわかりたい,と思うものに対してはいろいろな方法でアプローチすると思います。数学も同じなのだな,と改めて気づかされました。

 

しかし「僕」のやつ・・・夕方の静かな図書室でテトラさん (魅力的な大きな目,甘い香りもする) とふたり,試行錯誤しながら,秘密を解き明かしていく・・・期待と落胆,混乱,そして発見と興奮・・・なんだこれは・・・おのれ・・・でも結局は「僕」先輩ステキ!そしてミルカさん無双!かつ意味深!

 

第5章 サイコロ娘の極限値

 いよいよ本書もクライマックスです。情緒的なクライマックスは前章だった感はありますが,それはそれです。思い入れが過ぎました。

舞台は再び「僕」の自室へ。「変わったサイコロ」という具体的なものから話は広がっていきます。展開図を作ってサイコロの目の並びを眺め,入れ替え,予想して検証し,そして数字の列は限りなく広がっていきます。数列とは,表でありグラフであり,平面で,空間で,まさに「広場」であります。

サイコロでひとしきり楽しんだあとは,「村木先生」からのお題が登場します。一見,ソフトウェア関係者なら馴染みのある数字ばかりで,これは自分でもいけるか?と思いますが,これが絶妙にややこしく,おもしろいです。

自分でも,「僕」やユーリと一緒に具体化し,一般化し,代数を使い,掛けたり割ったり足したり引いたり,じっくり時間をかけて楽しみました。

ほんとうにおもしろかったので,これから読まれる方は,ぜひご自身でも数式をいじくりまわして楽しんでいただきたいと思います。「いや,これくらい楽勝でしょ」という賢い方は,それはそれでうらやましい。

 

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ちなみに,各章ごとの問題もたいへん絶妙です。すっとできるものもあれば,計算間違いや勘違いで悔しい思いをしたり,違う解法で挑んだために変な回り道をしたりしましたが,解説と合わせて楽しめました。最後の研究課題までは,力及ばず手つかずですが・・・

 

すっかり長くなりました。結論としては,本書もやっぱりおすすめです!

 

数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて を読んだ

そろそろブログタイトルも,こんなちょっとスカした感じじゃなくて,「冴えないおじさんの読書にっき」とかにしたほうがいいだろうか,と少し悩んでいます。

いえ,元気になったらソフトウェアの話もするはずなので,いいのです。

 

今回も数学ガールの秘密ノートシリーズから,「微分を追いかけて」です。

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書評というほど立派なことはとても書けませんが,とにかく,私がいかに楽しんだかを書いていきたいと思います。

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今回は電子書籍

 

こんなにも「微分を追いかけた」ことはなかった

さて,微分です。瞬間の変化率を求めるもの。
微分については,仕事でも変化率に着目して取り組んでいた時期があったので,本書の導入部はわりとすんなりと読めました。それにしても,こんなにもゆっくりと「微分を追いかけた」ことはありませんでした。そもそもどういう操作をしているのか。どういう目的,場面で使えるのか。そして,実際に手を動かして計算して,たしかに公式にたどり着くことができる。当然といえば当然ですが,再発見する喜びがありました。

ユーリさんのセリフにも「階差数列と似てる?」というものがありましたが,本書の紹介ページにもあるように,複数の分野,視点でもって対象を照らしてくださるので,学びがつながっていく楽しさも味わうことができました。

 

あっ,パスカルの三角形!

これも紹介ページにも記載されていますが,パスカルの三角形が登場します。

いやもう,こんなにも「遊べる」ものだったとは思いませんでした。

プログラマの数学 第2版」にも登場するパスカルの三角形ですが,ここから二項定理にもつながり,微分にも関連するとは。先に「プログラマの数学」を読んでおいたおかげで,楽しさもひとしおでした。

こういうときに,電子書籍だと,出先でもすぐに別の本を参照できていいですね。

 

テトラさん,なんていい子

 また今回は,今まで以上に手を動かして,ユーリさんやテトラさんと同じように迷い,考え,計算し,式を変形しながら読みました。なんてことない式変形でも,妙にハマって苦しんだりして,でも,そもそも高校生のときからスラスラできたことなんてなかったな,とほろ苦い気持ちにもなりながら楽しみました。

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悪戦苦闘,でも面白い

「僕」が示してくれるヒントを手掛かりに,すぐに次のページをめくらず,心ゆくまで自分で考える。考えて考えて,自分なりの方針が「僕」と一致していたときのうれしさといったら!

また,「僕」の話を聞いてもわからないときは,「そう,まさにそこが分かりません!」というポイントをテトラさんが代わりに質問してくれます。なんていうのでしょう,テトラさんと同じ気持ちを追体験している感じで,「僕」の言葉が輝いて見えます。「僕」先輩はなんて誠実で,ていねいに私と向き合ってくれる人なんだろう。惚れそう。もう気分はテトラさんです。

まあ,テトラさんよりも理解が遅い自分に(高校2年生以下か・・・)と少し悲しくもなりますが,そしてそのことをここで発表している自分が恥ずかしくもありますが,とにかく楽しかったのです。

そしてこの楽しさは,後半にいくほど増していきます。ミルカさんが最後に提示してくれる内容にもワクワクします。数学って面白い!たしかにこれは,現実を説明するための言葉のひとつなんだ!と実感できます。でも,ミルカさんは何故あんなにも最初からすべて見通せるんだろう。すごいなあ。と数学の本ですがテトラさんに完全に感情移入です。自分,おっさんなのに。坊主頭の小太りなのに。。。

 

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今回もいきおいに任せて書きなぐってしまいました。なんだか,取り組めば取り組むほど面白くなってきて,たいへんうれしいです。

次は秘密ノートシリーズの積分,その次は行列へ行こうと思っていましたが,その前に数列や整数を読んでおいたほうが絶対面白いだろうな,と思い直しました。

 

今回の「微分を追いかけて」は1週間かけて楽しみました。こんなにコスパのいいたのしみもなかなかないと思います。また,忙しい社会人にはなかなか許されない,贅沢な読み方とも思います。今しかできないことだと思うので,この機会をしっかり味わっておきたいと思います。

 

数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実 を読んだ

社会復帰に向けたリハビリ活動,続けています。

数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実 を読みました。

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「プログラマの数学 第2版」のときと同じように,今回もメモなど取りつつ,章末問題も正面から取り組みつつ (そして普通に返り討ちにあって泣きそうになりつつ) じっくりと楽しみました。

 

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今回は紙の本です

こういうものは,やはり早く読み終えようと急いで読んでもだめで,必要なだけ時間をかけるとたいへん楽しいですね。また,紙の本だとページを押さえたりするのが面倒ではありますが,液晶画面のように,不意に自分の顔が映り込んでダメージを受けることがないのは良いです。

さて,以下,感想です。数学的な内容についてと,小説としての魅力について,僭越ながら自分なりに書きました。

 

1.数学的な内容に関して

基礎の基礎を,つかんで伸ばして転がして

見出しのままではあるのですが,ベクトルについての話をするのに,まずは身近で具体的な例として「力 (重力,張力,作用・反作用など)」の話から入ってくれています。

そこから,図形の話,数とベクトルの関係,等しさの定義から集合と同値による分割,そして関数空間への拡張と,具体から抽象へ世界が広がっていきます。私のような数学音痴にとっては,「関数空間」なんて単語が出てくるだけでもう,こう,「勉強してる感」が出て非常にうれしいわけです。

結城先生が良くおっしゃっていますが,「複数の世界を行き来して考える」という思想が本書にも良くあらわれていて,物事の本質に複数の光を当てることで,その姿が浮き彫りになっていくような,頭をぐらぐら揺さぶられるような,不思議な感覚を味わいました。

各章ごとの問題も難しすぎず簡単すぎず (とはいえ,普通に間違えまくって何度もやりなおしましたが),さらに回答も複数の解法を丁寧に示してくれていて,自分が何に気づくべきだったか,どこを理解できていないかがよくわかります。

とにかく,楽しかったです。そして,次のステップへ行こうと思えました。

 

2.小説としての魅力について

数学を通して真理に近づく,まるで祈りをささげるように

シリーズ全作を読んだわけではありませんので,他ではどうかわかりませんが,「僕」を通して描かれる世界は穏やかで,しずけさと美しさに満ちています。「博士の愛した数式」もそうでしたが,人々が真摯に数学と向き合う空間は,静謐で,神聖な気配さえ漂ってくるものなのかもしれません。

夕日差す放課後の図書室は,まるで教会のようです。「僕」たち敬虔な信徒たちが,数学が見せてくれる世界の広がりへ,静かな情熱をたたえて日々向き合っています。

本書では,世界は基本的に「僕」を通して描写されます。魅力的な女性たちも登場しますが,客観的な外見の美醜は表現されません。あくまで「僕」にとって,どう魅力的か,という観点のみです。

「僕」は,いつでも誠実で,自分がどのように考えたかを大切にするとともに,他者がどのように考えているかも大切にします。先に立って導いてくれる教師や「ミルカさん」にはもちろん,後輩の「テトラちゃん」やいとこの「ユーリ」にも,敬意をもって接し,それぞれの考えを尊重します。

高校生らしく,異性を意識する淡い心のうごきもありますが,とにかく登場人物たちの在りようが素晴らしく,ときおりにじみ出る個性や人間らしいしぐさもいとおしく思えます。特にミルカさんから感じられる,彼女の抱えてきた孤独と誇り,仲間を見つけた喜びは味わい深いものがあります。

 

・・・気づけばまた,熱が入りすぎていました。こんなテンションで不意に自分の顔が画面に映ったりしたら,さぞつらかろうと思います。紙の本でよかった。

相変わらずの乱文で恐縮ですが,今回はこのあたりにいたします。

 

NaITEというコミュニティ

突然ですが,NaITEというコミュニティがございます。

 

naite.swquality.jp

 

長崎,と入ってはいるものの,特に参加資格があるわけではなく,みなさん明るく,しかし向上心にあふれたコミュニティです。

代表の池田 暁氏をはじめ,ソフトウェアの品質に関して,開発プロセスやテスト,および関連分野に造詣の深い方々が活動に参加されています。

昨年度の活動については,こちら にまとまっています。

 

関東近辺にはなってしまいますが,勉強会を定期的に開催していて,気軽に参加できますし,みなさん暖かく迎えてくださいます。ソフトウェア開発に関わる方,特にQAやテストエンジニアの方でしたら,ほんとうにおすすめです。

 

※以下、終了しました(2019/2/2追記)

直近では,2019/2/2 (土) 14:00~ 以下の勉強会が予定されています。よろしければ,まずはリンク先をご覧になってください。さらに,ご興味がおありでしたらぜひ,お気軽に参加申し込みを!

(connpass のイベントページです)

nagasaki-it-engineers.connpass.com

 

伽藍とバザールを読んだ

いったん箸休め的に,「伽藍とバザール」を読みました。読み終えてまず感じたのは,「これ,ほぼ日の経営じゃないか」ということでした。

 

伽藍とバザール エリック・レイモンド (著),山形浩生 (訳)

https://www.amazon.co.jp/dp/B00O4ASMLQ/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_ICOrCb9B0990S

 

ともかく,完全にただの読書日記と化していますが,このままいきます。そのうち,ソフトウェアに関する内容もきっと書きます。きっと。

あと,ひとつ前の記事が,結城先生の目に留まったおかげで,多くの方に読んでいただいたようです。ありがたいことです。ですが,お察しの通りあまり賢い人間ではないので,どうも申し訳ないです。

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またこのパターンです

さて,伽藍とバザールです。なんと kindle 版は100円です。

この本は,オープンソースプロジェクトが,なぜ優れた成果を生みだせるかを分析した論文として書かれたものです。いま読むと,おそらく多くの方にとっては特に目新しい内容ではないのでは,と思います。しかし,これが1997年に書かれていたということに衝撃を受けました。

内容は,まず前半から中盤までをたいへん乱暴に箇条書きでまとめますと,

  • Linus と彼が作り上げた Linux 開発モデルはすごい
  • そのエッセンスを掴んで実践してみた fetchmail プロジェクトもすごい
  • FSF (Free Software Faundation) が gcc などのコア開発で用いていたプロセスは,中央集権的で,クローズドで,リリースもすっごい時間をかける,いわば伽藍 (Cathedral) 建設のようなものだ
  • Linux に代表されるオープンソースプロジェクトは,やる気があり,優秀なエンジニアがどんどん集まって盛り上げていく,いわばバザール (Bazaar) のようなものだ
  • 「目玉の数さえ十分あれば,どんなバグだって深刻ではない」

こんな感じになります。これだけなら,正直タイトルだけで薄々わかりますね。 

 後半の分析や従来型プロジェクトマネジメントへの反論のところが,まさに慧眼だなと思います。こちらもたいへん乱暴に箇条書きにしますと, 

  •  まず,エンジニアたちをその気にさせるに足る,魅力的なアイデアが最初
  • そのアイデアをオープンにし,開発をリードし,またほかの開発者から見て魅力的であるリーダ / コーディネータが揃えば,プロジェクトは走り出す
  • 走り出したプロジェクトを駆動し続けるのは,集まったエンジニアたちへの適切な報酬 (金銭である必要はない,きちんと称賛され,貢献しているという誇りを得られることなど) と,皆が魅力を感じ続けられるような,開発の方向づけ
  • 優秀なエンジニアたちがモチベーション高く (ある意味,自身のプライドを満足させるエゴでもある) よってたかってプロダクトをチェックするので,従来のような中央集権型マネジメントによって発生するオーバーヘッドも回避できる
  • 開発におけるよろこび,というのは資産なのだ!

こんな感じでしょうか。これは,良い点であると同時に,非常に難しい点でもあるように感じます。エンジニアたちの好奇心を惹き続けられる魅力あるプロダクトでないと,飽きられてしまったら開発が終了するからです。

そして本書は以下のように続きます。

  • まずはじめに、「誰かが思いついた良いアイデア」がある
  • イデアの良さを正しく理解し,スケールさせるのが組織やコミュニティ
  • そのようなアイデアを生まれやすくする,また素早くブラッシュアップしていくには,開発者どうしが,相互に対等な関係で,ゆるい結びつきを複数もっているような組織 / コミュニティであるべき
  • いちばんアタマのいい,効率のいい仕事の仕方は,遊ぶように働くこと!

読み終えて感じたのは,私の知る範囲でも「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」や「How Google Works」に,この思想は受け継がれているということでした。そしてこういった「アイデアを大切にし,発案者が熱意をもってメンバーを募り,みんなでアイデアをどんどんブラッシュアップしていく文化」や,「メンバー同士の関係を可能な限りフラットにし,意見をどんどん言うことで仲間たちから称賛される組織」という意味では,まさに「ほぼ日」じゃないかと思いました。

オープンソースの精神とは,クリエイティブな発想をもっとも大切にしている。

クリエイティブな発想を最も大切に考えている「ほぼ日」は,このバザールの考え方を磨きぬいて,現実の組織に適用している。

もちろんほぼ日だけでなく,Google もそうでしょうし,Microsoft も近年ではオープンソースへの貢献がめざましいです。

新しい本を読むほうが,より洗練された知識がえられるとは思いますが,いま「伽藍とバザール」を読むことでも,以上のような楽しみ方ができました。

暑苦しい文章になりました。ここまでにいたします。

プログラマの数学 第2版 を読んだ

結城 浩 さんの「プログラマの数学 第2版」を読みましたので,感想などまとめておくことにいたします。

 

www.hyuki.com

 

先日から「リーダブルコード」,「すいません,ほぼ日の経営」に続いてこちら,ということで,なんだか新人とか若手の読書日記みたいになっていますが,いまの自分には必要なことだと思いますので,良しとしましょう。

ただ,kindle 版を購入したのですが,kindle paperwhite だと文字が薄く,濃度調整もできなくて少々難儀しました。iPadkindleアプリなどでは問題なかったので,kindle paperwhite と相性が悪かったようです。

 

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楽しみました

今回もメモなど取りつつ,本文中のクイズや証明などにチャレンジしつつ,毎日少しずつ読み進めたのですが,気づけば2週間近くかかっていました。とほほ。でも,たいへん楽しかったです。以降,この本を読んで良かったところを書いていきます。

 

1.カバーしている範囲が絶妙

書籍の目次を見ていただければ一目瞭然ではあるのですが,論理,数え上げ,指数,対数,帰納法背理法,そして第2版から追加された「機械学習への第一歩」と本当に絶妙です。習ったきり忘れていたり,なんだかふわふわしたままで使ったりしていた部分を,大賢者が過保護に教えてくれる感じで,幸せを感じました。

 

2.解ける,把握できるサイズにまとめられた例題

きっと本当はもっと複雑な例とか,美しい証明とかいくらでもあるでしょうし,ひとつの例を複数の視点で解説してくれたりしていて,分かっている人からすると冗長だったりするのかもしれないですが,徹底してわかりやすさを重視してくださっています。

なんというか,少し頑張れば,私のような力のないものにも理解できるのです。この感覚はほんとうにうれしくて,学ぶことの楽しさを味わうことができました。

 

3.「わからない,苦手」ということを責められない。やさしい

未読の方からすると,何を言っているんだ,という感じかもしれませんが,とにかく優しいのです。高校生のころから20年ずっと,数学(というよりも,算数,いや,「数のおけいこ」レベルか。。)が苦手でコンプレックスでした。それなのにソフトウェアを仕事にしている自分自身に,もはや焦りをこえて罪悪感さえ感じていました。

ですが,この本を読み,30代も後半に差し掛かった自分ですが,前向きな気持ちを持つことができました。特に,本文237ページ「苦手から生まれる知恵」のところで出てくる以下のフレーズは,読んでいて涙が出そうになりました。一部引用いたします。

  • 人間は,大きな数を扱うのが苦手です。ですから,数の表記法がいろいろ工夫されました。
  • 人間は,複雑な判断を間違えずに行うのが苦手です。ですから,論理が作られました。
  • 人間は,たくさんのものを管理するのが苦手です。ですから,グループ分けをします。
  • 人間は,無限を扱うことが苦手です。ですから,有限のステップで無限を扱います。

苦手でいいんだ,と思いました。苦手だからこそ,できるようになる工夫を楽しむべきなんだ,と思えました。

 

4.本書の位置づけが明確で,自然と次に進みたくなる

この本はあくまで入門であり,著者の手によって「あらかじめ,解ける,把握できるサイズに分割された問題」が扱われています。そのおかげで,「わかる」よろこびを味わうことができ,自然と次のステップへ進みたいと思えるようになりました。

また,ベクトル表現について書籍ごとに書き方が違ったりしますよ,とか,細かいことですが初学者には嬉しい説明も随所にあります。巻末に紹介されている,著者のひとことコメント付きの書籍リストも心憎い気配りです。自分は,やはり「数学ガールの秘密ノート」シリーズから行こうかなあと思います。

 

長々と書いてしまいました。とにかく,久しぶりに味わうよろこびがたくさんあったもので,テンションが上がってしまいました。読み終えてみて,結城先生が「書かなかったこと」に自然と興味が向くような,今の私には,とてもうれしい本でした。

 

すいません、ほぼ日の経営。を読んだ

こちらソフトウェアとは直接関係しないのですが,途中何度か涙が出そうになるほど読んでいてうれしい本でしたので,記録しておきたいと思います。

 

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メモなどしながらじっくりと読みました。

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ほぼ日手帳じゃないのがアレ


ひとことで言うと,「『企業は人なり』に本気で取り組んだ社長のおはなし」だと思いました。

 

会社を経営していくうえで,社員や,事業にかかわる関係者を,役割や能力といった,いわば「機能」としての面だけを考慮するのではなく,あくまでも「人」として引き受けていくにはどうしたらいいか。

会社というものを,人間らしさを制限する,いわば「枠」のようにしてしまうことなく,人が生き生きと幸福に,自由に振る舞うための「場」にするにはどうしたらいいか。

糸井重里さんが,職人としての生き方から「社長」として生きていくためにと考え続けていることが,わかりやすいことばで (アルファベット3文字の略語とか,格好つけたカタカナ語とか出てきません) ていねいに語られています。

また,糸井重里さんが学び,吸収してこられたであろう,小倉昌男氏やドラッカー氏,それに本書には名前こそ出てきませんが,おそらくは岩田聡氏,吉本隆明氏,堤清二氏などたくさんの先人たちの気配も感じられます。そういう意味でもお得かもしれません。

 

私の文章力ではとても魅力を書ききれないので,内容を少し引用させていただきたいと思います。この引用箇所のセンスも自信ないんですけどね!

  • 好きなものについて考え続けたり,興味のあることを続けたりすることが,人の能力を伸ばしていきます。それを邪魔されないことが「集中」ということの本当の意味ではないでしょうか。ー第二章 ほぼ日と人 より
  • 「誠実」であればおのずと「信頼」が生まれます。なにかの仕事を頼んで,一緒に手をつないでいるときに,その人が手を離さないこと。逃げないと思える人とは仕事ができると思うんです。つまり「誠実」と「信頼」はセットになっている。 ー第二章 ほぼ日と人 より
  • ぼく自身は否定感を抱えている人間ですが,「生まれてよかった」と思える人が集まる社会のほうが人を幸せにするはずです。だから工程間につながるものを提供することが,ほぼ日のベースにあるのだと思います。 ー第五章 ほぼ日と社長 より

  

電通のコピーライター 田中泰延さん (田中泰延(@hironobutnk)さん | Twitter  : この方も相当魅力的な方です) は,会社としての「ほぼ日」を「資本主義の奇跡」と呼んでおられましたが,私もまったくの同感です。この組織が株式市場に上場し,きちんと利益を出し,事業を継続しているということ自体,すばらしいことだと思います。

 明日から役立つ実用書,という類の本ではないですが,チームで仕事をしておられる方でしたら,何かしら響くものがある本だと思います。おすすめ,であります。